カリテ閉館後、我々はどこへ行くのか 2026年東京ミニシアター地図

コラム
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はじめに 街を歩くことで知る東京の映画文化

映画を観ることと同じくらい街歩きが趣味なボクは、街を歩くことでいつも東京の文化を知った気になる。映画好きとしては主に新宿・渋谷・有楽町エリアが主な回遊エリアにはなるが、徒歩2分のシネマカリテが閉館になった今、我々は劇場を新規開拓しなければならない。

ボクにとって映画館に向かう小さな時間は、それ自体が豊かな体験だ。その道すがらに美味しい料理店とレコード屋と服屋とカフェがあれば、後は何もいらない。映画を観る前に立ち寄る喫茶店でコーヒーを飲み、映画を観た後にレコード屋で新譜を探し、気になった服屋を覗き、小さな料理店で食事をする。この一連の流れが、映画館に通うという行為を完成させる。

2026年1月12日、新宿シネマカリテが閉館を発表した。2012年12月22日開館から13年間。2スクリーン(100席、78席)で「珠玉の作品」を上映してきた映画館が、資本コストを意識した経営判断により消えた。

浅井隆(アップリンク)の冷徹な分析は正しかった。「2スクリーン = 経営の難しさ」。NOWAビル50%株主として、映画館売上+自社賃料 < 飲食賃貸収益という計算が働いた。東証スタンダード上場企業・武蔵野興業にとって、株主への説明責任が文化的意義を上回った。

新宿・渋谷・有楽町。ボクが歩き回るこのエリアで、カリテは特別な存在だった。徒歩2分という距離は、映画館への「通い」を可能にする。ふらりと立ち寄り、上映時間を確認し、時間が合えば観る。この気軽さが、カリテとの関係を作っていた。そしてカリテに向かう道すがらには、いくつかの馴染みの店があった。新宿駅東南口エリアの小さな生態系の中に、カリテは埋め込まれていた。

しかしその映画館が失われた今、我々は新しい地図を描かなければならない。カリテで上映されていた作品を、今後どこで見るのか。カリテに通っていた習慣を、どこに移行するのか。そして新しい映画館に向かう道すがらに、どんな店を発見するのか。ここからは一位から五位までをランキング形式で紹介したい。

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新宿武蔵野館

第1位 新宿武蔵野館 徒歩4分の兄弟館という最も現実的な選択肢

カリテの代替として、まず真っ先に挙げるべきは新宿武蔵野館だ。理由は明白だ。カリテと同じ武蔵野興業が運営する兄弟映画館であり、スタッフも同じ(2026年1月14日時点)。新宿区新宿3-37-12のカリテ(新宿NOWAビル地下1階)から、新宿区新宿3-27-10の武蔵野館(武蔵野ビル3階)まで徒歩わずか4分。物理的にも組織的にも、最も近い存在だ。

新宿武蔵野館は1920年開館という歴史を持つ。100年以上の歴史の中で、何度も改装を重ねながら生き延びてきた。2016年には耐震補強工事を経てリニューアルオープン。現在は3スクリーン(スクリーン1: 129席、スクリーン2: 84席、スクリーン3: 86席)の計299席(車椅子席3席含む)で、カリテの178席を大きく上回る。この規模の違いが、経営的には有利に働いている。

重要なのは、武蔵野館がカリテと同じく「ミニシアター規模の新作」を上映していることだ。邦画・洋画を問わず、大手シネコンでは上映されないアート系作品、社会派ドキュメンタリー、アジア映画などを積極的に扱う。カリテで上映予定だった作品の多くは、今後武蔵野館に移行する可能性が高い。特に洋画は、武蔵野館に収斂されるだろう。

スタッフが同じということは、プログラミングの感覚も引き継がれることを意味する。カリテの支配人・諸井征彦が掲げていた「珠玉の作品上映方針」は、武蔵野館でも継続されるだろう。

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第2位 ヒューマントラストシネマ渋谷 新作ラインナップの重複という実質的な代替

第二の代替劇場として挙げるべきは、ヒューマントラストシネマ渋谷だ。渋谷駅から徒歩7分、渋谷区渋谷1-23-16のココチビル7・8階。東京メトロ渋谷駅B1番出口正面という立地だ。武蔵野館が「組織的継承」ならば、ヒューマントラストシネマ渋谷は「プログラム的継承」を担う。

最も重要なのは、カリテとヒューマントラストシネマ渋谷の新作ラインナップが頻繁に重複していたことだ。フランス映画、イタリア映画、北欧映画、韓国映画。カリテで上映されていた作品の多くが、同時期にヒューマントラストシネマ渋谷でも上映されていた。つまりカリテ閉館後、これらの作品は自動的にヒューマントラストシネマ渋谷に集約される可能性が高い。

さらに決定的な利点がある。会員制度だ。ヒューマントラストシネマ渋谷の会員になれば(年会費1000円)、新作が火曜・木曜を除いて1400円、火曜・木曜なら1200円で観られる。一般料金2000円に対して最大600円の割引。年間10本見れば十分に元が取れる。

映画館としての設備も充実している。3スクリーン(スクリーン1: 200席、スクリーン2: 173席、スクリーン3: 60席)の計433席。武蔵野館を上回り、カリテの2倍以上だ。座席は全席指定で、オンライン予約が可能。ココチビル内には飲食店もあり、映画の前後に食事もできる利便性がある。

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第3位 アップリンク吉祥寺 2スクリーンの教訓を活かした若者向けカウンターカルチャー

第三の選択肢として、少し遠いがアップリンク吉祥寺を挙げる。吉祥寺駅から徒歩5分。新宿からは中央線で約15分。カリテや武蔵野館と比べれば確かに遠い。しかしこの「距離」が、逆説的にアップリンクの独自性を保証している。

奇しくも、アップリンク代表の浅井隆がカリテ閉館を経営分析し、「2スクリーン = 経営の難しさ」を指摘した。彼の分析は正しい。しかしアップリンク吉祥寺は、この教訓を反面教師として活かしている。2019年開館のアップリンク吉祥寺は3スクリーン(149席、74席、29席)。渋谷のアップリンクが2021年に閉館した後、東京近郊の拠点となった。

アップリンクのプログラミングは、カリテとは明確に思想が違う。カリテが「珠玉の作品」という言葉で表現した芸術性重視の姿勢に対し、アップリンクはカウンターカルチャー、実験映画、社会運動的なドキュメンタリーに軸足を置く。カリテが上品なフランス映画を好んだとすれば、アップリンクは挑発的で政治的な作品を選ぶ。

この違いは、観客層にも反映されている。カリテの常連は比較的年齢層が高く、映画史的教養を持つシネフィルが多かった。対してアップリンクの観客は若い。20代、30代を中心に、社会問題に関心を持ち、映画を単なる娯楽ではなく思考のツールとして捉える層が集まる。若い観客には、この姿勢が好評だ。映画館をただ「作品を消費する場所」ではなく、「議論と出会いの場」として機能させる。

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第4位 テアトル新宿 邦画難民の新たな居場所

第四の選択肢として、あえてテアトル新宿を挙げたい。新宿区新宿3-14-20、新宿テアトルビル地下1階。新宿三丁目駅B3番出口から徒歩3分という好立地だ。この映画館は、カリテ閉館後の「邦画難民」にとって、最も重要な受け皿になる可能性がある。

カリテで上映されていた洋画の多くは、新宿武蔵野館に収斂されるだろう。しかし邦画はどうなるのか。特にミニシアター系の邦画、若手監督の初長編、映画祭出身作品。これらは武蔵野館だけでは吸収しきれない。

テアトル新宿は、この空白を埋める。1スクリーン218席という中規模館で、邦画に強い。特に話題作、口コミで広がる作品、若手俳優主演作などを積極的に上映する。カリテが芸術性重視の邦画を選んでいたのに対し、テアトル新宿はより大衆的で、しかしメジャーではない邦画を扱う。

重要なのは、テアトル新宿がテアトルシネマグループの一員であることだ。ヒューマントラストシネマ渋谷と同じグループだ。つまりカリテで上映されていた邦画の一部は、テアトル新宿かヒューマントラストシネマ渋谷、あるいは両方で上映される可能性がある。そしてテアトル新宿も、会員制度(TCGメンバーズカード)があり、割引が受けられる。

新宿三丁目駅から徒歩3分という立地も見逃せない。カリテがあった新宿駅東南口エリアに近い。つまりカリテに通っていた習慣を、大きく変えることなく、テアトル新宿に移行できる。

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第5位 シネクイントとホワイトシネクイント 渋谷カルチャーと映画の融合

第五の選択肢として、シネクイントとホワイトシネクイントを挙げる。どちらもパルコが運営する渋谷の映画館だ。シネクイントは渋谷区宇田川町20-11の渋谷三葉ビル7階、渋谷ロフトの隣。ホワイトシネクイントは渋谷区宇田川町15-1の渋谷PARCO8階。どちらも渋谷駅から徒歩5〜7分程度だ。

この二館の最大の特徴は、年齢層がさらに低いことだ。カリテの常連が40代以上中心、ヒューマントラストシネマ渋谷やテアトル新宿が30代以上だとすれば、シネクイントとホワイトシネクイントは20代が中心だ。大学生、専門学校生、若い社会人。彼らにとって渋谷は、ただの街ではなく「カルチャーの聖地」だ。

シネクイントは2スクリーン(スクリーン1: 162席、スクリーン2: 115席)の計277席。ホワイトシネクイントは渋谷PARCO8階にある。両館とも、パルコという商業施設と一体化している点が重要だ。映画を見る前後に、パルコやロフトで買い物をし、カフェで時間を潰し、レコード店で音楽を探す。この一連の流れが、渋谷カルチャーの本質だ。

プログラミングも、この若い観客層を意識している。カリテが古典的なヨーロッパ映画を重視したのに対し、シネクイントとホワイトシネクイントはより同時代的で、ポップカルチャー寄りだ。アニメ、音楽映画、ファッションドキュメンタリー、K-POPアイドル映画。これらは「真面目な映画」ではないかもしれないが、若い世代にとっては確実に「文化」だ。

渋谷という立地が、この親和性を高める。渋谷はファッション、音楽、アート、ストリートカルチャーが交差する街だ。シネクイントとホワイトシネクイントは、この文化的生態系の一部として機能している。映画館は孤立した存在ではなく、渋谷という街全体の中に埋め込まれている。

カリテの常連がシネクイントやホワイトシネクイントに違和感を覚えるのは、当然だ。観客の年齢層が違う。上映作品の傾向が違う。映画館を取り巻く文化的文脈が違う。しかしだからこそ、この二館は重要だ。ミニシアター文化は、一つの年齢層、一つの趣味嗜好だけで維持されるものではない。20代の若者が映画館に通い続けることで、10年後、20年後のミニシアター文化が保証される。

シネクイントとホワイトシネクイントは、パルコカード提示で割引があり、毎月22日はペアで2600円という若者向けサービスもある。この経済的配慮も、若い観客の継続的な来館を支えている。

結論 カリテという1つの道程は失われたが

カリテの閉館後、我々はどこへ行くのか。答えは一つではない。第1位の武蔵野館へ。第2位のヒューマントラストシネマ渋谷へ。第3位のアップリンク吉祥寺へ。第4位のテアトル新宿へ。そして第5位のシネクイントとホワイトシネクイントへ。

街を歩くことで文化を知るボクにとって、この分散は新しい発見の機会でもある。武蔵野館への徒歩4分で、新宿駅東口の別の側面を知る。渋谷のヒューマントラストシネマに向かう途中で、明治通り沿いの店を覗く。吉祥寺のアップリンクに行くために中央線に乗り、吉祥寺という街を歩く。新宿三丁目のテアトル新宿に向かう道で、伊勢丹の裏側のエリアを発見する。渋谷のシネクイントとホワイトシネクイントに通うことで、宇田川町の若者文化に触れる。

そしてそれぞれの映画館に向かう道すがらに、美味しい料理店とレコード屋と服屋とカフェを見つける。映画館に通うという行為は、映画を観るだけでは完結しない。映画館に向かう小さな時間の中に、街の豊かさがある。その道すがらに発見する店が、映画体験を完成させる。

カリテという一つの映画館が閉館しても、その役割は複数の映画館に分散され、継承される。そして分散されることで、かえって文化は豊かになる。我々は散らばりながら、東京という街を、より深く知る。

徒歩2分という距離で通えたカリテの利便性は失われた。カリテという1つの道程は失われた。しかし映画文化、ミニシアター文化を愛する者にとっては、2026年これ以上ない新規開拓のチャンスではないか。第1位の武蔵野館、第2位のヒューマントラストシネマ渋谷、第3位のアップリンク吉祥寺、第4位のテアトル新宿、第5位のシネクイントとホワイトシネクイント。これらの映画館を巡ることで、我々は新宿・渋谷・有楽町という回遊エリアを、より立体的に理解する。

カリテは閉館した。しかしカリテが上映してきた「珠玉の作品」を見る我々の行為は、終わらない。そしてカリテとは違う映画館を、カリテとは違う街で見ることで、我々の映画的視野と、東京という街への理解は、逆説的に広がる。それが、カリテへの最良の追悼だ。我々は劇場を新規開拓しながら、街を歩き続ける。映画館に向かう小さな時間の中に、美味しい料理店とレコード屋と服屋とカフェがあれば、後は何もいらない。2026年、新しい映画館への道が、我々を待っている。

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